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最高裁判所第一小法廷 平成9年(オ)331号 判決

横浜市青葉区美しが丘五丁目一四番一〇号

上告人

佐藤孝子

右訴訟代理人弁護士

西村寿男

ドイツ連邦共和国ノルトライン・ヴェストファーレン州アーヘン市ユリツヘル・シュトラーセ三〇六番

被上告人

エレガンス・ロルフ・オッフェルゲルト・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング

右代表者取締役

マンフレート・ゼイファース

右訴訟代理人弁護士

近藤恵嗣

城山康文

同訴訟復代理人弁護士

鈴木修

右輔佐人弁理士

青木博通

右当事者間の東京高等裁判所平成七年(ネ)第四五九八号商標使用差止等請求事件について、同裁判所が平成八年九月一二日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人西村寿男の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋久子 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

(平成九年(オ)の第三三一号 上告人 佐藤孝子)

上告代理人西村寿男の上告理由

原判決は次に主張するとおり経験則違反によるものであるから取り消されるべきである。

一、上告人の標章と本件商標とは類似していないこと

(1)原判決は、上告人の使用している標章と本件商標とは類似していると判断しているが、右判断は経験則に反するものである。

経験則よりして、上告人の使用している標章と本件商標とは類似していないことは明らかである。

(2)上告人の使用している標章は「a」と「e」とを組み合わせた図案部分と「azamino・Elegance」という文字部分とからなる。

上告人の使用している右図案部分も文字部分もいずれも本件商標とは明らかに異なるものであり、類似することはない。

(3)まず、図案部分についていえば、上告人の使用する標章は上告人の屋号である「アザミノ・エレガンス」からとったものである。

すなわち「アザミノ」のローマ字の頭文字「a」と、「エレガンス」の頭文字「e」とを組み合わせたものである。

しかるに本件商標の図案部分は「エレガンス」の英文の頭文字である「e」を上下逆さまにして組み合わせたものである。

右のとおり「a」と「e」の組み合わせである上告人の使用する標章の図案と「e」の組み合わせである本件商標の図案とは外形上明らかに異なるものである。

(4)また、図案部分について、上告人使用の標章には四つ葉のクローバーの図形が表示されている。

しかしながら、本件商標の図案部分には、四つ葉のクローバーとは全く異なる図形が表示されている。

右のとおり図案部分に表示されている右図形も明らかに異なるものである。

また、右図形の図案上の位置も異なっている。

上告人の四つ葉のクローバーの図形は図案の右下に位置しているが、本件商標の図形は図案の右上に位置しているものである。

(5)次に上告人の使用する標章の文字部分と本件商標の文字部分とは明らかに異なっており、類似することはない。

上告人の使用する標章の文字部分は、上告人の屋号である「アザミノ・エレガンス」の文字が表示されているものであり、本件商標の文字部分は「エレガンス」の文字が表示されているものである。

「アザミノ・エレガンス」と「エレガンス」とは文字よりしても明らかに異なっているものであり、類似混同することはありえない。

(6)また、文字部分の位置も全く正反対である。

上告人の使用する標章の文字部分「アザミノ・エレガンス」は図案部分の右側に位置している。

一方、本件商標の文字部分「エレガンス」は図案部分の左側に位置している。

右文字部分の位置よりしても、上告人の使用する標章と本件商標とは全くことなるものである。

(7)また、上告人が使用している標章は昭和六〇年一二月に上告人の娘婿である細井美広が考案したものであり、上告人が使用を開始したのは昭和六一年一月二八日である。

しかるに、被上告人が類似であると主張する被上告人の商標は甲第三号証の二の商標出願公告に記載のとおり、昭和六三年一〇月二一日に公告されたものである。

右事実よりして上告人が被上告人の本件商標を知ったうえで本件標章を考案したものでもないし、使用を開始したものではない。

(8)経験則上、上告人の使用している標章と本件商標とが類似していない証左としては、上告人の店舗を訪れる顧客が上告人の店舗を被上告人の製品を販売している店舗であると間違えて入店してくることは全くない。

右事実よりしても、一般通常人において、上告人の標章と本件商標を類似していると見るべき人は全く存在しないものである。

二、上告人の標章は商品の出所表示機能を営んでいないこと

(1)原判決は、上告人の標章は一般需要者に対し、上告人の店舗において販売する婦人服等の出所を示し、その商品を広告する機能を有していると判断しているが、右判断は経験則に反するものである。

(2)上告人は、本件標章を、上告人の経験する店舗である「アザミノ・エレガンス」の屋号を示すマークとして店舗に表示しているものである。

上告人は本件標章を上告人の店舗を表示するマークとして店舗の看板、ショーウィンドー、ネームプレー下に使用しているものである。

原判決は、ショーウィンドーに本件標章が使用されており、ショーウィンドーの中には婦人服が展示されているので、本件標章は商品の出所機能を営んでいると判断している。しかしながら、右判断は経験則上明らかな間違いである。

ショーウィンドーに本件標章が使用されていても、右ショーウィンドーの中の商品が被上告人の製品であると顧客が判断することは経験則上ありえない。

衣服等の商品の出所については、商品に「ブランド名」が記載されていることは公知の事実であり、経験則上明らかである。

事実、上告人が本件店舗において販売する衣服等の商品については、商品に出所であるブランド名が全て記載さているものであり、被上告人の商品であると混同することはありえない。

以上のとおり、ショーウィンドーに本件商標を表示しても、上告人が被上告人の製造している商品を販売しているものであると考えることは経験則上ありえない。

(3)ショーウィンドーに本件商標を表示しても、上告人が販売する商品を被上告人の商品であると混同することが経験則上ありえない証左として、上告人の本件店舗に入店する顧客において、上告人が被上告人の商品を販売していると考える人は誰もいないという事実である。

右事実よりしても、一般通常人である顧客においてショーウィンドーに本件標章が表示されていても、被上告人の商品が販売されていると考えることはありえないものである。

以上

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